地中海ダイエット

ベリー (berry)という単語を辞書で引くと、「核のない、果肉の柔らかな食用小果実、液果」と書かれています。イチゴや、キイチゴの類の小さな果物です。

 ベリー類もまた、地中海ダイエットの重要なメンバーです。 

 世界で広く食用にされているベリー類には、バラ科のイチゴ
(strawberry)、同じくバラ科で、キイチゴの仲間のラズベリー(raspberry)、ブラックベリー(blackberry)、ブラックラズベリー(black raspberry),
 ツツジ科のブルーベリー(blueberry)、クランベリー(cranberry)などがあります。これらの多くはヨーロッパや北米の温帯や暖帯の土地が原産地ですが、今では全世界で広く栽培され、ポピュラーな果物となっています。ています。やわらかく水分が多いベリー類は新鮮なものは生で食べますが、長期保存には適さないため、砂糖などを加えて煮込んだプリザーブ(preserve. ジャム)にしたものや、最近では冷凍や、フリーズドライにしたものも広く流通しています。このほか、グースベリー (gooseberry)、ハックルベリー(huckleberry)、マルベリー(mulberry, クワの実)、なども食用にされています。

今のところ、ベリー類単独の摂取と心血管系の病気のリスクとの関係を調べた大規模研究は発表されていません。しかし、実験室のレベルでは、いくつかの興味深い結果が出ています。

ベリー類に豊富に含まれているポリフェノールの一種に、エラジン酸(ellagic acid) があります。現在までに、エラジン酸には非常に強い抗腫瘍作用、抗ウイルス作用と抗酸化作用があることがわかっています。数多くの基礎研究の結果から、エラジン酸は食道癌、大腸癌、乳癌、膵臓癌、前立腺癌、皮膚癌の細胞の分裂を抑えることが証明されています。また一方で癌細胞にアポトーシス(計画細胞死)を起こさせることが明らかになっています。つまり新しく癌細胞が増えるのを抑えると同時に、すでにある癌細胞を消滅させるように誘導するのです。

人間の体内には、日常的に多くの癌細胞が誕生しています。これらは体の免疫、防御機構によって処理されて行きますが(この処理機構のひとつとしてアポトーシス誘導があります。)、処理しきれなくなった癌細胞がある一定の数以上になって、はじめて臨床的な癌を発症するのです。ですから、エラジン酸の抗腫瘍効果は、臨床的な癌の発病予防のために極めて理にかなっています。

これまでの基礎研究の成果を受けて、サウスカロライナ大学のホリングス癌センターでは、現在500人の子宮頸癌の患者に対するエラジン酸を使った二重盲検試験を進めています。臨床的な成果が発表される日が待たれます。

エラジン酸の抗酸化作用も、体内での過酸化脂質の生成を抑えて、酸化LDLをできにくくすることによって動脈硬化を予防し、ひいては心血管病のリスク減少効果につながることが推定されています。

ベリーそのものや、その抽出物を使った癌抑制の研究もいくつか発表されています。凍結乾燥したブラックラズベリーを与えることによって、ラットの大腸癌が抑制された(Nutrition and Cancer 40 125-133, 2001), あるいはハムスターの口腔内癌が抑制された(Anticancer Research 22 4005-4015, 2002), などの報告があります。

 ブラックラズベリーの抗癌作用のメカニズムとして、エラジン酸とともに注目されているのがアントシアニン
(anthocyanin)です。

 アントシアニンはフルーツに含まれる色素で、フラボノイドの一種です。チェリー、ベリーや花、果物の赤、青や紫色を作り出す元になっています。アントシアニンには非常に強い抗酸化作用があることが知られています。抗酸化作用を定量化する方法として、
ORAC (Oxygen Radical Absorbance Capacity、酸素ラジカル吸収能)という数値がありますが、アントシアニンを多く含んでいる色の濃いベリー類は、いずれも他の野菜やフルーツに比べて桁違いに高いORACスコアを持っています。この強い抗酸化作用が、ベリー類の癌予防効果や心血管病予防効果に結びついていると考えられています。

アメリカ、ペンシルベニア州スクラントン大学のJ.A.Vinson氏たちは、2003年3月のアメリカ化学学会の集会で、クランベリージュースの心血管疾患予防効果について発表しています。

 クランベリーもまた、
ORACスコアの非常に高い果物です。20人のボランティアの男性、女性に、8オンス(252ml)の27%クランベリージュースを毎日3杯ずつ飲んでもらいました。27%というのは、アメリカで一般的に販売されているクランベリージュースと同じ濃度です。

 1ヵ月後、対象者たちの血液中の善玉(HDL)コレステロールは平均10%上昇していました。総コレステロールには変化が見られませんでした。
このHDLの10%上昇は、現在までに得られている疫学的なデータによれば、心臓病リスクの約40%低下に相当すると考えられます。

 われわれ医師からすると、HDLの低い患者さんが高い心血管リスクを持つことはわかっていても、なかなかHDLを特異的に増やすことのできる治療法がないことが残念でした。その点で、このクランベリーの効果は今後とても有望だと思います。

 さらに大規模な研究結果が出てくれば、クランベリーをはじめとするベリー類やその抽出物が低HDL血症の治療に使われるようになるかもしれません

 
Vinson氏たちはさらに、20人の高脂血症の患者を対象に、3ヶ月間クランベリージュースを飲んだ前後で血液中の過酸化物質の濃度を測定しました。その結果、平均で40%の低下が見られました。クランベリーに含まれるポリフェノールの抗酸化作用が証明されたわけです。このことからも、クランベリーの心血管病予防効果の高さが推測されます。

残念ながら、現在日本ではイチゴとブルーベリーなどを除いて、フレッシュなベリー類の入手が難しいです。ただ、乾燥、冷凍、あるいはジャムやジュースにしたかたちでは、季節を問わず比較的に手に入りやすいですから、ぜひいろいろな種類のベリー類を毎日の食卓に取り入れてください。

嗜好食品(luxury food)から機能性食品(functional food)

今まで、ナッツやベリーは毎日の食事にあまり本質的に必要ではない、いわば嗜好品として扱われることが多かったようです。おやつ、スナック、あるいは食後のデザート、といった位置づけですね。値段も比較的高く、ぜいたく(luxury)品というイメージも、特に日本では強いように思います。しかし、これらの食品を食べることによって、心筋梗塞、脳卒中、癌などのリスクが減少するということが明らかになってきている今、健康のために食べる、つまりナッツやベリーの健康を増進する機能を期待して毎日の食卓に乗せる、ということを始めてもいいのではないでしょうか?健康を維持するための機能性食品、functional food としてのナッツやベリーの性能は、おそらく多くの効果のはっきりしない「健康食品」よりも高いと思われます。何よりも基礎的、あるいは臨床的になされた研究の積み重ねから証明されたエビデンスがあるのですから。その上、錠剤やカプセルのサプリメントや、”・・・・の抽出物”、とか”・・・・のエキス”を飲むのよりは、ナッツやベリーを食べるほうがずっと楽しく、自然です。





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