地中海ダイエット

<地中海ダイエット>

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 北はヨーロッパ、東は中東、南は北アフリカに囲まれている地中海の周辺は、温暖な気候と肥沃な土壌に恵まれていて、さまざまな農作物が豊富に収穫されます。また、地中海産の魚介類が容易に手に入ることもあり、特徴ある食事のスタイル、”地中海ダイエット”が形作られてきました。

 一方、医学、疫学の研究から、南ヨーロッパ、
地中海地方の心臓病による死亡率は、北ヨーロッパに比べると非常に低いことが知られていました。この事実が、食事のスタイルの違いによるものではないか、という仮説の元で、数多くの医学研究が行われました。そして、実際に地中海ダイエットを構成する食材の多くが心臓病や脳卒中を予防する効果を持つことが明らかになってきています。   



      
 
それでは、”地中海ダイエット”とは具体的にはどのような食事のスタイルなのでしょうか?
   
 南ヨーロッパ地中海地方の中でも食文化は国ごとに大きく異なります。フランス料理、イタリア料理、ギリシャ料理。どれも食材、料理法、味の傾向などどれを取っても独自のものがあり、「これが地中海料理です」、といえるようなメニューなどはありません。しかし、地中海地方を特徴付ける明確な食事のパターンはやはり存在します。これは1960年代までのギリシャと南イタリアで最も典型的だったものといわれています。2001年、アメリカ心臓協会の医学雑誌、”サーキュレーション”に、以下のような地中海ダイエットの特徴が記載されています。(Circulation 103 1823-1825, 2001)


1. 野菜と果物の摂取量が多い

2. シリアルやパン、特に全粒粉を使ったものを多く食べる

3. ナッツ類、ベリー類、豆類、イモ類の摂取類が多い

4. オリーブオイルが主要な脂質源である

5. 魚、鶏肉、乳製品を少量から中等量食べ、赤身肉(牛肉、羊肉など)の摂取
  は少ない


6. 卵の摂取は週に4回以下

7. 少量から中等量のワインを食事と一緒に飲む


このような地中海地方の食事のパターンが健康にいいということは推測はされていましたが、実際にどれだけ心臓病の予防に役立つか、という研究の結果が発表されたのは意外に最近のことです。

Lyon Diet Heart Study (リヨン ダイエット‐心臓研究)

フランスの南東部、ワインの名産地のブルゴーニュとコート デュ ローヌの中間あたりに、フランス第2の都市、リヨンがあります。ローヌ川とソーヌ川にはさまれたリヨンは古代、ガリアの首都だった場所で、1998年にはユネスコの世界遺産に指定された、歴史ある土地です。リヨンはまた、世界の美食の中心地、としても有名で、ポール ボキューズをはじめ、ミシュラン3つ星レストランが目白押しになっていることでも知られています。土地柄からすると、地中海ダイエットというよりは,むしろバターやクリームたっぷりの“ブルジョワ”フランス料理の総本山、という感じのところです。
 面白いことにこの地で、地中海ダイエットの効果を検証する
”Lyon Diet Heart Study” (リヨン ダイエット‐心臓研究)が行なわれました。

1988年から1992年の間に心筋梗塞を起こした70歳未満の人たちを無作為に二つの群に振り分け、一方のグループには地中海スタイルの食事を摂るように指導、教育し、他方のグループには医師からごく普通の指導がされました。普通の食事のグループ(204人)と地中海ダイエットのグループ(219人)の間に、肥満度、血圧、コレステロール値、血糖値、腎機能、服用している薬剤などの差はありませんでした。

その後これらの人たちは5年間にわたり観察され、心筋梗塞の再発作、心臓病による死亡、心不全、脳卒中、入院などのイベントの発生率が検討されました。心血管病の再発を予防する、つまり2次予防に関する前向き研究です。その結果は実に驚くべきものでした。

心臓病による死亡と心筋梗塞のどちらかが起こる(第1のエンドポイント)率は1年間、100人当たり、通常の食事のグループで4.07人、地中海ダイエットのグループで1.24人でした。つまり、地中海ダイエットによって心血管病のリスクが72%低下したことになります。
 第1のエンドポイントに脳卒中、心不全、不安定狭心症、肺塞栓などの発症
(第2のエンドポイント)を加えた発症率は通常の食事のグループで9.03人、地中海ダイエットのグループで2.59人でした。リスクの低下率は67%です。両グループの間にあまりにも大きな差が出たため、1993年、この研究は予定よりも早く終了する決定が下されました。通常の食事を摂っているグループの人たちが不利益をこうむる可能性がある、という倫理的な問題のためです。(Circulation 99 779-785, 1999)

2つのグループの間に、食事の違いを除いた他の危険因子には差がないのですから、このリスク低下は純粋に食事のパターンの違いによるものです。いかに食べ物と病気の発生が密接に関係しているかを改めて確認させる結果ですね。また、ワイン、魚、オリーブオイル、野菜や果物など、個々の食材の心血管病予防効果よりも、食習慣のパターンを総合的に改善することによって得られる効果のほうがより大きいということも改めて認識させられます。


GISSI-Prevenzione clinical trial (GISSI 予防臨床研究)

 さて、お隣のイタリアでも地中海ダイエットによる心筋梗塞の2次予防の研究が行なわれました。GISSI-Prevenzione clinical trialは、イタリア国内の172の施設が共同で実施した多施設共同研究です。

 心筋梗塞を起こした男性と女性、11,323人が対象となりました。心筋梗塞後、すべての患者さんは地中海スタイルの食事を摂ること、すなわち、@魚、A果物、B生野菜、C調理した野菜、Dオリーブオイルの摂取を増やすようにアドバイスされました。

 その後、調査開始時および6
,18,42ヵ月後に実際の食事の内容が調べられました。@−Dの摂取量はポイント化され、加算された後、全体的な食事スコアが計算されました。最も地中海ダイエットに近い食事を10ポイント、逆に最もかけ離れている食事を0ポイントとしています。
 その後約6年半の間に対象の人たちが死亡する率
(原因にかかわらず)を検討したところ、スコアが最も高い4分の1に入るの人たちの死亡率はスコアが最も低い4分の1の人たちに比べ、49%低いことがわかりました。スコア1の人の死亡率を1.0とするとスコア5の人では約0.5、スコア9の人は約0.3、スコア10の人は約0.1と、理想的な地中海ダイエットに近づくにつれて直線的に死亡のリスクが低下しています。(European Journal of Clinical Nutrition 57 604-611,2003)
 この研究では心血管病に限らず、あらゆる原因での死亡率を検討しています。一度心筋梗塞を起こした人たちが対象なので、心血管病での死亡が多いと思われますが、原因を問わない全死亡のリスクをこれほど著明に低下させている背景には、地中海ダイエットの、癌や他の病気を予防する効果も関連していると思われます。いずれにしても、これほどはっきりした死亡率の差が出るということは、いかに生命と健康に対して食事の内容が重要かということの証明にほかなりません。また、一度心筋梗塞という重大な心血管病を起こしてしまった後でも、食事内容を改善する
(=地中海スタイルに近づける)ことができれば、その後の健康的な生活をより長く送ることができるチャンスはずっと増えるわけです。

この研究では、摂取を増やすようにアドバイスされた5つの食品()それぞれについても、死亡率の低下との関係を検討しています。それぞれ、まったく/ほとんど食べないという人に比べて、

@魚を週2回以上食べる人のリスクは24%低下
A週に1回以上果物を食べる人のリスクは27%低下
B生野菜を毎日食べる人のリスクは35%低下
C調理した野菜を毎日食べる人のリスクは30%低下
Dオリーブオイルを日常的に摂る人のリスクは24%低下していました。

これらはすべて、原因を問わない全死亡リスクの低下ですから、これらの食品による生命予後改善効果、あるいは長生き効果が証明されていることになります。

代表的なヨーロッパ地中海地方のイタリアにあっても、食事内容を“地中海風”に改善するだけでこれほどの効果があるということは、現代のイタリアで食生活が伝統的な地中海ダイエットから離れてきているということの裏返しなのでしょうか。

以上2つの研究はいずれも、2次予防、つまり心筋梗塞を1度起こした人が再び心血管病にかかる、あるいは死亡することに対する地中海ダイエットの予防効果を検証した研究です。これらから得られた結論は、1度心血管病になった人は、地中海ダイエットを摂ることによって、その後の再発や、死亡の危険を減らせる、ということでした。

それでは、1次予防、すなわち健康な人がはじめて心血管病を起こすリスクに関して地中海ダイエットはどのような予防効果を持つのでしょうか?


スペインでの研究

 スペインで行なわれた研究では、初回の心筋梗塞発症リスクと地中海ダイエットとの関係を調べています。
 171人の初めて心筋梗塞になった人たちのグループと、対照として171人の心血管病を持たない人たちのグループについて、136種類に及ぶ食物の摂取状況を調べました。二つのグループ間に、性別の割合、教育や職業、肥満度などの差はありませんでした。
 食物のうち、地中海ダイエットを代表すると思われる、

@オリーブオイル
A食物繊維
B果物
C野菜
D魚
Eアルコール

の6品目について、最も摂取が少ない5分の1をスコア1、最も摂取が多い5分の1をスコア5として、5段階に点数化しました。逆に、F肉類とその加工品、G白パン、米、パスタなどに関しては最も摂取が多いグループをスコア1、少ないグループをスコア5としました。こうしてスコアを加算すると、合計スコアが多いほど理想的な地中海ダイエットに近い、と考えたわけです。
 その結果、合計スコアが20未満の人が心筋梗塞を発症するリスクを1とすると、スコア20−24の人のリスクは0.17、25−29の人のリスクは0.14、スコア30以上の人のリスクは0.21でした。平均すると、スコアが1増えるとリスクが8%低下する、という関係が成立しました。つまり、理想的な地中海ダイエットに近い食事をしている人ほど、はじめての心筋梗塞発作を起こす危険が低くなる、ということが示されたわけです。
 個々の品目について、摂取の最も少ない5分の1の人に対する、最も多い5分の1の人の心筋梗塞リスクは、

オリーブオイルで78%低下
食物繊維で54%低下
果物で57%低下
野菜で58%低下
魚で69%低下
アルコールで43%低下していました。

これに対し、肉類とその加工品では104%、白パン、米、パスタでは200%リスクが上昇していました。ただし、白パン、米、パスタは最も多い5分の1に入る人にのみリスク上昇が見られ、中等量食べる人にはむしろややリスクが低下する傾向が見られましたから、これは、極端な過食の人にのみリスク上昇が起こった、と解釈するべきです。
(European Journal of Nutrition 41 153-160, 2002) 

 この研究結果から、地中海ダイエットには心血管病の1次予防効果、すなわちはじめての病気の発生を予防する効果があるということも明らかになったわけです。

今まで病気をしたことがない人でも、食事の習慣を地中海ダイエットに近づけることにより、将来、心血管病を発症する危険を大きく下げることができるということが証明されたことになります。