トマトとリコピン

地中海地方での食生活の特徴のひとつが、トマトをさまざまなかたちで(それも大量に!) 食べることです。特に南イタリアでは、夏から秋に収穫したトマトを瓶詰めにしてどっさり蓄え、一年中、毎日必ずといっていいほどトマトソースをベースにした料理を食べています。

 イタリア語でトマトのことを、
pomodoro, (金のリンゴ)、と呼ぶことからも、昔からこの地方の人々にどんなに大切にされてきたかがうかがえます。

 トマトはもともと南米大陸の北西部、アンデス地方、中米やメキシコに自生していたものが、スペインに16世紀ごろ持ち込まれて、そこからイタリアや地中海地方の東部にひろがり、広く栽培されるようになったと言われています。この地方の、温暖で雨が少ない気候によく合っていたのでしょう。

熟したトマトを真っ赤に染めている色素がリコピン(lycopene)です。

 
トマトの学名、Lycopersicon esculentum に由来する名前を持っているわけですね。

 
リコピンはカロテノイドの一種です。

 野菜や果物に含まれるカロテノイドは健康を保つ上で大事な成分ですが、このうちにんじんなどオレンジ色の野菜に含まれるβ‐カロテンは体内でビタミンAに変化する性質があります。これに対して
リコピンは同じカロテノイドとしての性質を持ちながら、ビタミンAに変化しない、という違いがあります。

 ビタミンAになれない
リコピンは、これまでどちらかといえば余り注目されない存在でした。

 ビタミンAと
リコピンは同じように抗酸化活性を持っているため、酸化LDLができることを抑えて、動脈硬化を防止するように働きます。

 リコピン
はその構造上、β‐カロテンなど他のカロテノイドよりも強力な抗酸化作用を持つことが知られています。

 さらに最近の研究で、
リコピンには他のカロテノイドにはない優れた性質があることがわかってきました。


ヨーロッパの10カ国で行なわれた共同研究(EURAMIC)では、662人の心筋梗塞患者と717人の健康人を対象として、脂肪組織に含まれるα‐カロテン、β‐カロテン、α‐トコフェロール(ビタミンE)とリコピンの量を調べました。

 その結果、体内に
リコピン量が多い人ほど心筋梗塞になりにくい、という関係が明らかになりました。

 
リコピン量が多い上位10パーセントの人が心筋梗塞になる危険は、少ない下位10%の人よりも48%低下していました。

 この研究では、他の抗酸化物質であるα‐およびβ‐カロテンとα‐トコフェロール(ビタミンE)の心筋梗塞予防効果は認められませんでした。
リコピン独特の際立った心血管病予防効果が示されたわけです。

 また、対象の人たちを@喫煙者、A過去に喫煙した人、B喫煙したことがない人、に分けると、
リコピンの予防効果は、それぞれ@37%、A59%、B67%でした。リコピンの強い予防効果が喫煙によって弱まってしまう、という関係が成り立つようです。(American Journal of Epidemiology 146 618-626, 1997)

フィンランドのKuopio大学では、46-64歳の男性1028人を対象として、血液中のリコピンの量と、動脈硬化の指標である頚動脈の壁の厚さ(動脈の内膜と中膜を合わせた厚さ)の関係を調べました。

 頚動脈の壁の厚さは、心筋梗塞脳梗塞の危険と深い関係があることが知られています。対象の人たちを血液中の
リコピン量によって4つの群に分けて、それぞれ超音波で計測した頚動脈の壁の厚さを比較したところ、リコピン量の少ないグループほど頚動脈の壁が厚い、というきれいな直線的関係が示されました。

 
リコピンによって動脈硬化が抑制されていること、また心血管病の危険が低下していることを強く示唆する研究結果です。

 また、面白いことに、
リコピン量が多いグループほど血圧が低い、という関係も明らかになりました。リコピンそのものに血圧を降下する作用があることが示唆されます。(American Journal of Clinical Nutrition 77 133-138, 2003)



Health Professional Follow-up Study(医療従事者追跡調査)の一部として、野菜や果物、カロテノイドの摂取と前立腺癌の関係が報告されています。

 約50,000人の男性を対象とした研究です。この中で、カロテノイドのうちα‐およびβ‐カロテン、ルテイン、β−クリプトキサンチンの摂取量は前立腺癌のリスクと関係がありませんでした。

 唯一、
リコピンの摂取量が多い人ほど前立腺癌のリスクが低い、という関係が証明されました。食品の種類でいうと、トマト、トマトソース、ピザ、イチゴの4品目だけが前立腺癌のリスクを下げていることがわかったのです。

 このうち、イチゴ以外の最初の3品目はどれも
トマトとその加工品、またはそれをたくさん含む料理ですから、トマトとリコピンによる前立腺癌予防効果は確実なものといえそうです。(Journal of the National Cancer Institute 87 1767-1776, 1995)


                                               つづく・・・






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