地中海地方での最も大切な食材のひとつがこのオリーブの実と、それから採られるオリーブオイルです。オリーブはもともと地中海地方原産のモクセイ科の常緑高木で、その実は約20-35%の脂肪分を含んでいるため、実を圧搾することによって良質な植物油、オリーブオイルが得られます。
地中海地方では食用にする油の大半がこのオリーブオイルだといわれています。そして、そのかわり、バターやクリーム、ラードなど、動物性脂肪の消費が少ないのです。
フランス人は平均で1人あたり年間数キログラムのオリーブオイルを食べます。地中海地方の中でももっとも多くオリーブオイルを消費するギリシャでは、1人当たり年間になんと15キログラムです!
地中海地方以外では、消費量はずっと少ないといわれます。

以前から、ヨーロッパの中でたくさんのオリーブオイルを消費する地中海地方の国々、ギリシャ、イタリア、スペインでは、乳癌や大腸癌による死亡率が、消費量の少ない国々、イギリスやデンマークに比べてとても低いことが知られていました。
1990年代に行なわれたいくつかの研究から、オリーブオイルの消費量が多いほど癌の発生が少なくなる、という関係が明らかになってきました。(International Journal of Cancer 58 774-780, 1994, Cancer 82 448-453, 1998)
さらに最近になって、スペインのグループがオリーブオイル消費量と、初回の心筋梗塞発作を起こす危険率の関係を報告しました。342人を対象とした研究です。(European Journal of Nutrition 41 153-160, 2002)
これによれば,日常的にオリーブオイルを食べている人が心筋梗塞を起こす危険は、そうでない人より57%も低かったのです。また、1日に10g以下しか摂らない人に比べると、38g以上摂る人の危険率はなんと78%も低く、つまり危険がほとんど5分の1に減少していることがわかりました。これは驚くべき数字です。現在得られるどんな薬にも、これほどの予防効果はありません。
その後、イタリアで、172の医療機関で11323人を対象とした共同の大規模研究の結果が発表されました。(European Journal of Clinical Nutrition 57 604-611, 2003)
心筋梗塞になった患者さんを発症後平均約6年間観察し、死亡率(原因を問わない)と特定の食品の摂取量の関係を調べた前向き研究です。観察期間に1660人の患者さんが亡くなりました。
この中で、オリーブオイルをまったく食べないか、時々食べる、という人に比べると、よく食べる、という人の死亡率は23%低く、毎日食べる、という人では29%低かったのです。
これらの研究結果から、オリーブオイルは初めて心筋梗塞を起こす危険を減らすだけではなく、一度心筋梗塞を起こした人の死亡率も下げる、すなわち、一次予防と二次予防効果を併せ持つことがわかりました。