それでは、オリーブオイルの心血管疾患予防効果のメカニズムは何でしょうか?
オリーブオイルに含まれる脂肪酸のうち、約80%が、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸です。
オレイン酸は、血液中のコレステロール、中でも悪玉(LDL)コレステロールを減らすことが知られています。一方で、善玉(HDL)コレステロールは減らしません。また、多価不飽和脂肪酸に比べて、一価不飽和脂肪酸を多く含む油は酸化されにくく、有害な過酸化脂質を作りにくいというメリットがあります。
健康な男性の食事に一日50gのオリーブオイルを加えて食べてもらったところ、わずか1週間後には、リポ蛋白が過酸化されにくくなる効果が証明されました。(Annals of Nutrition and Metabolism 37 75-84, 1993)
こうした血液中の脂質を改善する作用によって、オリーブオイルの抗動脈硬化作用を説明できると考えられてきました。
しかし、それだけではなかったのです。

オリーブオイル自体に血圧降下作用がある

スペインでは、オリーブオイルと、オリーブオイルと同程度にオレイン酸が豊富なひまわり油を比較した研究が行なわれました。(Journal of Hypertension 14 1483-1490, 1996)
高血圧の女性16人を対象にして、4週間ずつオリーブオイル、またはひまわり油のどちらか一方を食事に加えて食べてもらい、4週間のウォッシュアウト(洗い出し)期間をおいてから、他方の油を4週間ずつ食事に加えて食べてもらう、というクロスオーバー法のデザインでおこなわれた研究です。
両方の期間に血液の細胞膜に含まれる脂質を調べるのと同時に、血圧の変化も測定しました。その結果、ひまわり油を摂ったグループでは血圧が変化しなかったのに対して、オリーブオイルでは収縮期、拡張期血圧(血圧の上の値と下の値)ともに約8mmHgの低下作用が見られたのです。
8mmHg といえば、病院でよく使われる降圧薬に匹敵するくらいのの効果です。オリーブオイル自体に血圧降下作用があることが示されました。

別の研究では、健康な人達にオリーブオイルか、同じ程度にオレイン酸が豊富なひまわり油を摂ってもらい、体内のLDLの酸化されやすさを比較しました。(酸化されたLDLがもっとも危険な悪玉でしたね)
その結果、オリーブオイルを摂った人たちのほうが体内のLDLが酸化されにくくなっている事がわかりました。(Annals of Nutrition and Metabolism 42 251-260, 1998)
つまり、オリーブオイルのほうがより強く動脈硬化を予防するということが裏付けられたのです。
これらの結果から、オリーブオイルの心血管疾患予防効果はオレイン酸が豊富であるということだけでは説明しきれないということがわかってきました。
オレイン酸プラスアルファの成分がなければ、オリーブオイルが、同等にオレイン酸が豊富なひまわり油よりも優れているはずがないのです。

最近、このプラスアルファが、オリーブオイルに含まれるファイトケミカルであることがわかってきました。
ファイトケミカル、Phytochemicals, という言葉は、植物、を意味する phyto- と、化学物質、という意味の chemicals が結びついた言葉で、植物に由来する化学物質という意味ですが、中でも人体に有用な抗酸化作用や抗癌作用などを持つ物質を特に指して使われます。
よく知られているファイトケミカルとしては、緑黄色野菜に含まれるカロテノイド、トマトに含まれるリコピン、お茶に含まれるカテキン、大豆に含まれるイソフラボン、サポニン、ニンニクに多い硫化アリルなどがあります。これらの物質が癌の予防や治療に有効であるというエビデンスが次第に集ってきています。
また、これらの物質はサプリメントとして精製された錠剤やカプセルで摂るよりも、食品から摂ったほうがより有効であるということもわかってきました。
では、オリーブオイルにはどのようなファイトケミカルが含まれているのでしょうか?