不飽和脂肪酸
ナッツ類は、種類によって違いますが、100g中におよそ50-70gという多量の脂肪を含んでいます。この中で、ナッツにもっとも多く含まれる脂肪酸はオレイン酸とα-リノレン酸です。
オレイン酸はオリーブオイルにも最も多く含まれる脂肪酸です。
- 血液中の善玉(HDL)コレステロールを減らさずに総コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールを減らす作用があること
- 有害な過酸化脂質を作りにくいこと
- リポ蛋白の過酸化を防ぐこと
など、血液中の脂質を改善する作用を持つことが知られています。
一方α-リノレン酸は、植物由来の代表的な必須脂肪酸で、ω-3多価不飽和脂肪酸のひとつです。体内に吸収された後で変化、修飾を受けてEPAとDHAになることができます。EPAとDHA,これらの魚由来のω-3不飽和脂肪酸に優れた心血管病予防効果があるということは広く知られています。
ナッツを食べることによってこのような体にいい不飽和脂肪酸を摂れるという事が、予防効果のひとつのメカニズムと考えられています。
ファイトステロール
ナッツに含まれるもうひとつの重要な栄養素が、ファイトステロールです。
人間を含む哺乳動物の体内では、コレステロールは細胞の膜の構造を作る役割をしています。ファイトステロールは植物の中で同様の役割を持つ物質で、構造もコレステロールと共通のステロール骨格を持ち、とてもよく似ています。
これらの名前も、コレステロール (cholesterol)はchole-, 胆汁の、sterol, ステロール、という意味からついていますし、ファイトステロール (phytosterol) は phyto-, 植物の、sterol, ステロール、というところから命名されているのです。
ファイトステロールは、血液中の総コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールを低下させることが証明されています。これは、コレステロールと構造が似通ったファイトステロールが、小腸でコレステロールが吸収されるのを競合して邪魔をするためと考えられています。ファイトステロール自身はほとんど吸収されず、毒性も全くないことがわかっています。
また、ファイトステロールには癌細胞の成長と転移を抑える作用があることが、実験室のレベルでは証明されています。(Journal of Nutrition 130 2127-2130, 2000)
マーガリンにファイトステロールを加えたものを食べることによって、血液中の総コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールが約8-13%低下したということが報告されています。(European Journal of Clinical Nutrition 52 334-343, 1998)
平均的な欧米の食事メニューには、1日あたり200-400mgのファイトステロールが含まれています。これに対してナッツ類には100gあたり200-700mgのファイトステロールが含まれています。
ファイトステロールがオレイン酸やα-リノレン酸などの不飽和脂肪酸の効果と相乗的に血液中のコレステロールを低下させるわけです。また実際に、いくつかの研究ではナッツを含む食事の前後で血液中のコレステロールを調べていますが、その結果、ほとんどの場合、総コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールが低下しています。
このように、オレイン酸、α-リノレン酸という有益な不飽和脂肪酸の作用に加えて、ファイトステロールのコレステロール低下作用が、ナッツの強力な心血管病予防効果のメカニズムであることが明らかになってきました。
それでは、これらの作用だけでナッツの予防効果がすべて説明できるのでしょうか?
前出のNurses’ Health Study (ナースの健康研究)では、飽和脂肪酸からのカロリーが5%増えるごとに心筋梗塞の危険が17%増えるのに対して、一価不飽和脂肪酸(オレイン酸など)、多価不飽和脂肪酸(EPA,DHAなど)からのカロリーが5%増えるごとに、危険がそれぞれ19%、38%低下すると結論付けています。
ところが、ここから推測される予防効果よりも、実際にナッツの効果を調べた研究で得られた予防効果のほうが、明らかに高いのです。
つまり、血清脂質改善のほかにも、ナッツの予防効果には別のメカニズムがあるはずです。